医療法人が保険を選ぶときの注意点

「保険営業」というと強引なイメージがあり、私自身も嫌な思いをしたことがあります。「医師歯科医師はお金持ち。顧客を紹介して!」としつこく言われたことも。

医療法人が保険営業のカモにされないために注意すべきことは?

そもそも税制改正で節税効果が低くなった現在は、法人保険のメリットはないのでは?

そんな保険の疑問を某外資系生命保険のAさんにインタビューしました。

  

【某外資系生命保険会社のAさん】

某外資系生命保険営業歴:約17年。

医薬品メーカーから転職し現在に至る。

顧客は主に医師歯科医師。医療法人の保険事情に精通。

私個人の保険の見直しをお願いし、結果的にお断りしたこともあります。

それでも変に気まずくなることもない方なので、忌憚なくお話を聞くことができました。

  

【インタビュアー】

黒田めぐみ 医療法人専門の行政書士

 

Q1. 税制改正以降、医療法人は保険に入っても無意味なのでは?

2019年に税制改正があり、生命保険の払込保険料は原則として損金不算入(税法上で損金に入れることができない)になりました。

節税対策としてのメリットはなくなったと思うのですが。

今後はもう医療法人は生命保険に入る意味はないのでしょうか?

 

Aさん

いいえ、保険に加入する意味はあります。

保険に加入する目的は「節税」だけではありません。

今までは保険加入の目的として「節税」という一部分だけが過度にクローズアップされてきました。

保険会社の営業はもちろん、税理士でさえも「節税のために保険に入りましょう」と。

「損金」「節税」という言葉が魔法の言葉のように使われていました。

しかし、保険本来の目的は節税だけではないんですよ。

Q2.医療法人にお勧めの保険は?

「節税は目的の一つにすぎない」ということですが、医療法人はどのような目的で保険に入るべきですか?どんな保険を選ぶべきでしょうか?

 

Aさん

保険商品はそれぞれ目的が異なります。

一人一人の状況やニーズによってお勧めは変わってきます。

それぞれのニーズにあわせて必要な保険商品を選ぶ、それが本来の考え方なんです。

いくつか具体例を挙げてみます。

 

・事業保障

例えば理事長が法人の借入の連帯保証人になっている場合。

理事長が死亡したら連帯保証人の地位は相続されます。

特に一人医師医療法人で理事長が管理者、という法人では売上も途絶えます。

このようなケースでも相続人の負担を軽減したい、そのような目的がある方にお勧めの保険です。

 

・福利厚生、遺族生活保障

従業員の退職金などを積み立てる保険です。

優秀な人材を長期で雇用するために活用できます。

死亡退職金、弔慰金は500万円×法定相続人の非課税枠があります。

 

・勇退退職金の積立

理事長など役員がご勇退される時の退職金を積立てる保険です。

退職金には税制上の優遇があります。

 

抜粋して例を挙げましたが、これらはすべての医療法人に必要な保険というわけではありません。

必要な方もいれば不要な方もいます。

保険は手段の一つであり、他の方法で解決できるケースもあるからです。

一つ一つニーズを確認しながら保険を選んでいく、これが王道の考え方です。

 

Q3.医療法人が保険に加入するタイミングは?

一般的には法人化のタイミングで保険を考えることが多そうですが。

 

Aさん

まず、一般的な法人と医療法人を比較した場合、必要になる保険は異なる傾向にあります。

なぜなら、開業当初からの保有資産、ご子息が医大に進学するなど、独特の事情があるからです。 医療法人の規模、ステージ、理事長の家族構成によっても保険に入る目的は変わってきます。

これらの状況は変化していくものです。

開業、医療法人化、スタッフ増員、家族構成など。

意外かもしれませんが、承継のタイミングでの保険加入が有効なケースもあります。

重要なのは「保険に加入すること」ではなく「何のために保険に入るのか」です。

そのためには、状況に変化があるタイミングで、その都度、保険契約を確認することをお勧めします。

法人保険だけではなく、並行して理事長個人の保険もあわせて確認していくことがベストです。 法人保険は法人を守るために、個人保険はご家族を守るためのものだからです。

 

Q4.法人と個人、保険会社は揃えた方がいい?

すでに入っている保険を解約して同じ会社に揃えた方がいいということですか??

保険会社にとってはメリットが大きそうですが…

 

Aさん

そんなことはありません。

確かに法人保険をご検討される方には、現在加入中の保険も確認させていただきます。

加入中の保険にはとても良い商品が含まれているケースも多いんですよ。

利回りが高い、いわゆる「お宝保険」であったりとか。

比較的多いケースとしては、個人の生命保険などは若い年齢で加入した方が一般的には保険料を抑えられますよね。

このようなケースでは加入中の保険を無理に解約せずに、活かしながら法人保険を選択するのがお勧めです。

なので、ベストな保険商品を組み合わせた結果、法人と個人の保険会社が異なるということはよくあります。

 

Q5.保険勧誘で注意したいこと

開業医師歯科医師、というだけで目の色を変える営業の方もいます…

無駄な保険を勧められないために注意した方がいいことはありますか?

 

Aさん

何もヒアリングしていないのに保険のプランやスキームを提案された場合は「おかしい」と思ってください。

保険商品の良し悪しは別として、プロセスがおかしいです。

先ほどもお話したように、必要な保険は目的やステージにあわせて変化していきます。

理事長のお考えや家族構成、法人のステージが何もわからない状態でプランやスキームは提案できません。

また、現在でも全額損金算入が可能な保険商品もあります。

だからといって「保険で節税しませんか」「全額損金に算入できますよ」

このような言葉だけに惑わされないようにしてください。

例えば、積立希望なのに節税のために掛け捨ての保険へ入れば、あとで「こんなはずじゃなかった」となりますよね。

このように節税だけを目的とすると理にかなわない結果になるケースも少なからずあります。

保険に加入する目的、つまり出口をしっかりとイメージすることが大切です。

 

Q6. 最後にお伝えしたいことをお願いします。

Aさん

保険担当者の質を見極めるポイントとしては、各専門家と連携が取れているかも重要です。

私は少なくとも顧客の顧問税理士とは連携を取っています。

保険の担当者も医療法人のブレーンです。

単独ではできることが限られてきます。

役に立つ保険をご提案するためには、各専門家との連携は必要不可欠です。 私は保険の専門家としてのクオリティを下げたくないので、情報共有や連携は不可欠だと考えています。

 

インタビューを終えて

今まで「医療法人の保険は節税のために入るもの」なんとなくそのように思っていました。

今回、Aさんからお話を聞いて、節税は単なる手段でしかないことを知りました。

手段をメインに考えていると出口がおかしくなる、確かにそうだなと。

「節税」という魔法の言葉に惑わされず、何のために保険に加入するのか本来の目的を明確にすれば、無駄な保険に入ることもないのではないでしょうか。

また、ヒアリングせずに一方的に保険商品を勧めてくる営業さんにはくれぐれも注意しましょう。

 

今回はご本人の要望により匿名でインタビューしました。

もしどうしてもAさんにご相談してみたいという方は「お問い合わせフォーム」からご連絡ください。

対応可能かどうか弊所から確認してご連絡いたします。