医療法人化検討の売上目安は〇〇千万円から
医療法人化の目的の一つとして「節税」があります。
では、その節税効果を実感できる具体的な診療報酬の売上はいくらなのでしょうか?
弊所とセミナーを共催している税理士さんに少し突っ込んだ質問も交えてくインタビューしてみました。
【税理士 加納豊彦先生】
エムイー行政書士事務所と医療法人向けの各種セミナーを共催。
数多くのクリニックを顧客とし、医業特有の税務を得意とする。
対人型ビジネスの現場目線による経営改善の提案のプロフェッショナル。
【インタビュアー】
黒田めぐみ 医療法人専門の行政書士
Q1.医療法人化を検討する売上の目安は?
一緒に開催しているセミナーでは「診療報酬売上3,000万円以上」としていますが。
他のブロブや税理士さんはもう少し高額な売上を目安としている印象があります。
正直なところ「加納先生、攻めているな~」と。
加納先生が本音で考える売上目安はずばりいくらですか?
加納先生
ずばり3,000万円からです。
賃金相場や立地条件により左右される部分もありますが、まずは3,000万円がスタートラインになってきます。
なぜなら、それくらいの売上であれば、院長の収入が700~800万円ぐらいになってくるからです。
ご存じのとおり、所得税は累進課税なので、所得が増えれば増えるほど税率は高くなっていきます。
一般的に個人と法人の税率が逆転してくるのが3,000万円ぐらいからになります。
(参考:医療法人化したときの節税効果)
ただし「3,000万円以上なら医療法人化すべき」というものではありません。
あくまでも「検討の開始ライン」です。
実際に売上3,000万円ぐらいのクリニックからご相談いただいても、シミュレーションの結果、税メリットがあるのはせいぜい2割ほどです。
大半は法人化してもメリットの享受は薄いです。
Q2.なぜ早期に検討した方がいいのか?
年間の売上が3,000万円でもその大部分は法人化が時期尚早とのことですが。
それでも3,000万円で検討したほうが良いのですか?
加納先生
もう何年も3000万円前後のラインを維持している、今後売上が上がる見込みがない、そのようなクリニックは、無理に法人化するのもどうかと思います。
医療法人を設立すると「節税効果があまりない」といった理由だけで簡単に解散できないからです。
しかし、成長過程である場合には、3,000万円ぐらいのラインで一度検討することをお勧めします。
なぜなら「時期尚早」「もう少し売上がUPしてから」と後回しにすると、タイミングを逃してしまい、後悔する恐れがあるからです。
私がご相談を受けたケースの中には、長年にわたり院長の所得が4000万円を超えた状態でありながら顧問税理士から法人化の提案を全く受けたことがなかった、というクリニックもあります。
このようなケースでは、院長先生は知らなかったばかりに、税金を過分に支払っていたことになります。
もし仮に早めに相談していればどうでしょうか。
その時点で節税効果はもちろん、医療法人のメリット・デメリットを理解した上で、院長ご自身が「法人化する・しない」を判断できたでしょう。
選択肢の中から院長が「法人化をしない」選択をしたのであれば、後悔はしません。
でも、「知らなかった」「税理士が何も言わないから」では後悔に繋がります。
単に税務の計算だけをするのが税理士ではありません。
将来的のビジョンや計画、成長のスピードは各クリニックによって異なります。
各クリニックに応じて選択肢をご提示し、院長のビジョンに寄り添ってご提案していくことが税理士にとって重要だと私は考えます。
後悔しないためには、目安として売上3,000万円を超えたら一度は税理士に法人化について尋ねてみてください。
もし顧問税理士があまり詳しくない場合には、医療法人に詳しい税理士にセカンドオピニオンを依頼するのも良いと思います。
Q.3早期に法人化すべきなのか?
後悔しないために、税メリットの享受が少なくても法人化すべきということですか?
加納先生
いいえ、あくまでも「検討開始のライン」です。
どのタイミングで法人化するのか、しないのかも含めての検討とお考え下さい。
売上は上がりだしたら一気に上がることが多いので、早めの段階で検討していくことが重要なのです。
医療法人以外にもMS法人を設立するなど、クリニック特有の節税対策もあります。
早めに正しい対策をすることで、選択肢も増えていきます。 また、分院展開や事業承継を視野に入れている場合でも、早めに検討が有効です。
Q.4一定以上の売上があっても法人化しない方が良いケースは?
ここまでは医療法人化の売上の目安について質問してきました。
逆に「売上がたくさんあっても法人化しない方が良い」というケースもありますか?
加納先生
はい、あります。
おおまかに分けて3つのケースです。
まず一つ目は、Q2.で回答した「3,000万円のラインを維持しているクリニック」です。
売上が3,000万円は節税効果がでてくるかどうかのラインなので、効果があったとしても微々たる金額になるケースがほとんどです。
今後、大幅な売上増加が見込めないのであれば、無理して法人化しても節税効果は少なく、医療法人のデメリットばかりがのしかかってきます。
二つ目は、院長がご高齢の個人クリニックです。
60歳を超えているのでしたら、長年、小規模共済に加入しているケースが多いです。
医療法人化すると小規模共済の対象外になります。
医療法人の役員として退職金をもらうにも積立年数が少ないので、少額になります。
それなら無理に法人化するよりも、個人経営を継続して小規模共済を満額で受け取る方がよろしいかと。
ただし、後継者がいるなど、事業承継の予定がある場合はケースバイケースになります。
三つ目は繰越の赤字を抱えているクリニックです。
赤字は確定申告で3年間繰越できますが(繰越欠損金)、法人化するとリセットされます。
繰越欠損金を使い切ってから法人化した方が節税効果は高いです。
インタビューを終えて
一概に○○円以上なら法人化したほうがお得、という絶対的な目安は存在しません。
しかし、中長期的な経営戦略を練るためには早めに検討を開始すべき、というのは納得です。
では、実際に医療法人化したらどのような節税効果があるのでしょうか?
引続き加納税理士へインタビューしました。
<取材協力>
加納税務会計事務所
税理士 加納豊彦先生
〒164-0012 東京都中野区本町2-1-8 YS Garden309号