医療法人化したときの節税効果
前回記事では、加納税理士に法人化を検討する開始ラインについて具体的な数字も交えて教えていただきました。(「医療法人化 売上目安」)
では、医療法人化したらどのような節税効果があるのでしょうか?
引続き加納税理士にインタビューしました。
【税理士 加納豊彦先生】
エムイー行政書士事務所と医療法人向けの各種セミナーを共催。
数多くのクリニックを顧客とし、医業特有の税務を得意とする。
対人型ビジネスの現場目線による経営改善の提案のプロフェッショナル。
【インタビュアー】
黒田めぐみ 医療法人専門の行政書士
Q1.医療法人化したときの節税効果とは?
「節税対策で法人化しましょう!」は税理士さんの王道の営業トークですよね。
具体的に何で節税対策になるのか教えてください。
加納先生
まず、個人クリニックの場合は、院長先生が個人事業主です。
医療法人化すると院長先生個人と医療法人の2つにお財布が分かれます。
個人クリニックの場合(太枠部分に課税)
法人化後の2つのお財布(太枠部分に課税)
<お財布① 法人>
<お財布② 理事長個人>
所得税は累進超過税率なので、所得が増えれば増えるほど税率が上がっていきます。
所得が低いほど税率も低いので、まだ開院間もないころなど院長の所得が少ない時期には個人事業主でいる方が支払う税金が少ないです。
しかし、所得が増えてくると税率が上がるので、個人事業主よりも法人化した方がトータルの税率を低く抑えられます。
その税率がひっくり返るラインが、院長の個人所得700万円ぐらいになります。
(参考:医療法人化検討の売上目安は○○千万円から)
Q2.お財布を2つに分けるのは大変では?
個人のままであれば儲かった分は院長の裁量で自由に使えます。
医療法人化すると、個人⇔法人間を自由に資金移動できなくなりますが。
加納先生
そうですね。
お財布を2つに分けることに抵抗があるのならば、無理に法人化しない方が良いでしょう。
なぜなら、しっかりと分けないと税務リスクが高いので、個人のままの方が安全だからです。
株式会社と比較して、医療法人は縛りが厳しいです。
特に同族間のお金の流れについては、税務当局はシビアです。
法人とは関係のない不透明な資金の流れがあったりすると、年間数千万円の売上に対して数百万円~の追徴税額が課されることもあります。
なので、ちゃんとお財布を2つに分けないと逆に損します。
法人化するような規模ですと、従業員の雇用や消費税の計算もあります。
個人の確定申告書の作成と比べ、法人の決算申告書の作成は非常に複雑で難しく、ボリュームも多いですし、消費税も医業の場合、売上や仕入、経費を課税、非課税にしっかり区分した計算が必要なので、院長ご自身で行う税務計算には限界がでてくるでしょう。
そのため、大部分の医療法人では税理士と顧問契約を結んでいますが。
顧問税理士のレベルによってはちゃんとしていないところもあるんですよね。
Q.3医療法人に強い税理士の見極め方は?
あっ、その部分、とても共感します。
税法だけではなく医療法も守っていただかないと、行政手続きでも苦労します…
ぜひ税理士さんの見極め方とかあれば知りたいです。
加納先生
ないですね…
医業を本当にわかっている税理士は少ないので、見極めて欲しいところではあるのですが。
1度や2度のご面談では見極めは難しいと思います。
知人からの紹介だと、全く医療法人の経験のない税理士に当たることもあります。
あえて言えば「医療法人」の看板を掲げているかどうかですが。
「医療法人の税務に詳しい」と謳っていても実際にはいい加減なところもあります。
大手会計事務所でも、税理士ではなく担当者が適当に処理をしているようなところもあるので。。
そのようなところでずさんな対応をされたドクターが私のところに乗り換えてくるケースも多いです。
顧客から驚くような対応をされたという話も聞くので、依頼してみないとわからない部分は大きいと思います。
理事長が「しっかりとお財布を2つに分けたい」とお考えでも、税理士の処理が間違っていて損をしているケースもあります。
院長や理事長は損していることすら気づかない、ということも多いです。
そうはいっても慎重になりすぎて税理士と契約できない、では困りますよね。
対策としては「あれ?うちの税理士、本当は医療法人のことを知らないのでは?」と不安を感じることがあれば、他の税理士にセカンドオピニオンとして相談してみることです。
インタビューを終えて
院長先生の所得が一定ラインを越えてくると法人化した方トータルでの税率が低くなる、これが医療法人化の節税効果です。
せっかく法人化しても間違った税務対策をすると逆に損するリスクが高い。
私は税金も税務調査も全くの素人ですが、医療法人設立や定款変更の場面でリスクを強く感じることもあります。
節税効果を求めるだけではなく、しっかりとした管理は本当に大切だと日々痛感しています。
<取材協力>
加納税務会計事務所
税理士 加納豊彦先生
〒164-0012 東京都中野区本町2-1-8 YS Garden309号